リストラティブヨガってどんなヨガ?その2
前回は、リストラティブヨガについて、おおまかに紹介をしました。
今回は、もう少し詳しいお話をしたいと思います。
前回の記事で、リストラティブヨガは、セラピー的要素を多く含むヨガとお伝えしました。
それは、このヨガが、怪我や疾患によって、身体的にアクティブなヨガを練習することが難しい場合などに対応することからスタートしているためでした。
私がお伝えするリストラティブヨガは、アイアンガー氏から始まったリストラティブヨガと同じく、カラダを補助具でサポートしていきますが、より繊細な脳や心へ大きな影響や効果を及ぼすと感じています。
今日は、以前、呼吸のはなしのシリーズの中で紹介した自律神経の面から、リストラティブヨガの効果を紐解いていきましょう。
わたしたちは、自律神経の働きによって、いのちを紡いでいます。
動いている時は、交感神経が主に働き、お休みする時やリラックスしている時は、副交感神経が優勢になります。
(最近は、もう一つ副交感神経があることが定説となっていますが、その話はひとまず置いて、シンプルに自律神経をアクティブな時のものと、非アクティブな時のものとしてお話しさせてください。)
アイアンガー氏がセラピー的要素を含むヨガとして、このヨガを必要な方に伝えていた時代は、人々は今よりもずっと静かに、シンプルに生きていたと想像できます。
一方、現代は、スマートフォンやPCなどを使ってインターネットで世界中の人や情報と繋がり、24時間動き続けて、休むことが無い時代。
物理的にも、街に住んでいると、深夜になってもなにかしら音がして、街灯を始め光は絶えることなく、コンビニエンスストアなど営業している店舗もあって、まさに眠ることがないようですよね。
そんな現代は、物理的にも、目に見えない情報の世界でも、動き続けることを要求されているような時代。
一時期話題になった「スマホ脳」という書籍では、わたしたちのカラダ・あたま・こころは、技術的な進歩のスピードに追いつけないままだと指摘しています。
カラダを動かすことで疲れて、ヘトヘトで倒れこむように眠りたい・・・そんな肉体的な疲労を覚えるよりも、オフィスワークやプライベートでのスマートフォンやPCでの作業で。眼と脳が疲れを覚える・・・なんてことが多くないですか?
或いは、眼や脳が疲れてヘトヘトになって、カラダがだるい、重い、節々痛くて動きたくない・・・になってませんか?
物質的に豊かになった現代社会(特に欧米や日本などのように、経済的に一見豊かな国)では、カラダへの脅威が薄れると同時に、昔のままの脳は、情報の海~しかも途轍もないスピードで走り続ける~へと刺激を求め、その刺激にさらされ続けて疲れ、ストレスをどんどん溜めて、カラダへと影響を及ぼしています。
リストラティブヨガは、そのスピードを競うような社会とは逆の状態へと誘います。
そこでは、何が起こるのでしょう?
・リストラティブヨガの特徴その1~副交感神経を優位にするヨーガ
ここからは、リストラティブヨガの実際的な特徴を紹介していきましょう。
リストラティブヨガは、自律神経を整えるヨガ、特に副交感神経を優位にしていくヨーガです。
(自律神経については、こちらの記事も参考にしてください。https://yogaspace-turiya.info/2022/06/03/kokyuu-jiritsushinkeintitlekokyuu/)
私達の生命を維持する活動~心臓を動かし、呼吸をし、血液や体液を循環させ、体温を保ち・・・などなど~を司っている自律神経。
そのうち、特に昼間、勉強したり働いたり、家事をしたりといった日常生活を営んでいる時に優位になっているのが、交感神経。
この時、わたしたちのカラダは能動的で、血液は行動をする腕や脚に流れ、心臓は速く脈打ち、血圧が上昇します。
同時に、酸素をたくさんカラダに取り込もうと、呼吸は吸う息がメインに、そして浅く速くなります。
それは、外的な脅威への対処として、いつでも行動できる状態へとカラダを準備させ、いのちを守るためにカラダを動かすため。
その為、カラダは筋肉が緊張して、わたしたちの意識はいつも外側へ向いて、あたまやこころも緊張している状態。
一方、家で親しい人とゆったりと時間を過ごしたり、まどろんだり、眠りについたりと、リラックスやお休みの時に優位になっているのが、副交感神経です。
この副交感神経は、外部からの脅威が無い~つまり安心安全な空間だと、私たちが感じ、カラダやあたま・こころが認識したときに初めて働き始めます。
そして、カラダは緊張を解き、心臓の拍動、呼吸はゆったりとしたリズムを刻み、全身で呼吸をし、血圧も低下すると同時に、すぐに動き出せるように腕や脚へ流れていた血液は、内臓へと流れ、消化活動が促されていきます。
例えば、ライオンや肉食動物が餌を求めている時、獲物を追う時のような活動的な時は、交感神経が働いている時。
瞳孔が開いて、獲物を探す、早く駆けて追う・・・その為にカラダを動かす。
同じライオンや肉食動物が、お腹が満たされて、大地にゆったり寝そべってくつろいでいる時、それが副交感神経が働いている時。
眠そうで~つまり瞳孔は縮んで、リラックスし、ゆったりと呼吸に合わせてカラダが波打っているのも見えるかもしれません。
この時、呼吸は全身で行われ、お腹の中では消化活動が行われています。
副交感神経を優位にしていくには、ライオンや肉食動物が満たされた表情で寝そべっているように、カラダの動きを鎮めて、動かなくてもいいと知らせていくこと。
そしてもう一つ、わたしたちのカラダは、重力に抗って足で立って、背骨を立てている~その頑張りを緩め、重力のカラダへの影響を減らしていくこと。
その為に、リストラティブヨガは、たくさんの補助具を使っていきます。
そして、リストラティブヨガは、「restore」(健康などを)回復するという言葉から生まれています。
なにを回復させるのでしょう?
あなたが回復させたいものはなんですか・・・?
カラダやこころの元気
自分への信頼・・・
そんな言葉が聞こえてきそうですね。
わたしたちが眠っている間、カラダは消化活動をしたり、カラダも脳もいろんな調整をして、新しい1日へと準備をしてくれています。
残り15%で残量が赤く点滅している充電池に充電をするように
わたしたちのカラダやあたま・こころは、眠っている間に、不要なもの、役目を終えたものを区分して外に送り出すと同時に、新しいものを受け入れる準備をし、新たな活動をしていくためのエネルギーを補充しています。
そう、わたしたちには自然治癒力が、元々備わっているのです。
そのことをわたしたちはついつい忘れて、外側のものにエネルギーをチャージしてもらおうとしますが、わたしたちには既に素晴らしいアイテムが備えられているんですね。
その自然治癒力を発揮させる為に、副交感神経を優位にしたい。
身の危険を感じている時に、ゆったり寝転がって消化したり、寝ちゃうなんてできない。
身を守るために、そして現代のわたしたちは、日常生活を楽しむために、交感神経に働いてもらいましょ。
一方、エネルギーを補充する時は、じっと動かずにいた方が早く回復できそうですよね?
その為には、カラダが安全あること、あたまやこころが安心を感じることが必要。
でも、忙しすぎる現代社会では、なかなかそう感じられずに、副交感神経のスイッチをオンにすることが難しい・・・
それでは、せっかく備わっている自然治癒力を活かしていくことも難しくなってしまいます。
眠る寸前までスマートフォンやテレビを観たり、明るい電気の下で過ごすことも多い日常生活では、「眠りたいけど眠れない」そんな悩みも聞こえてきそうですね。
それは、交感神経が働きすぎて、副交感神経のスイッチが入りにくくなっているから。
疲れすぎてキューッバタンと倒れるように眠りにつく場合も、交感神経のスイッチが入ったまま眠りについているので、睡眠の質は悪くなりがち。
段々と照明を落としたり、ゆったりとした気持ちで睡眠への準備をしたり・・・そんな時間が持てればと願いながら、なかなか難しい。
そんな時にリストラティブヨガのポーズを、毎日10分でも練習していくと、副交感神経のスイッチを入れやすくなります。
「動かなくていい」時間を作ることで、カラダがお休みをしてもいい、あたまは考えなくてもいい、こころも緊張を解いていいと感じ取っていきます。
そうして初めて、副交感神経は優位になり、エネルギーを補充する自然治癒力が発揮されていくでしょう。
・リストラティブヨガと他のヨガの違い
リストラティブヨガは、補助具にカラダを預けて、一つのポーズを10~15分保っていきます。
それは、重力に抗っているカラダをそのストレスから解放し、お休みをさせていくこと。
又、10~15分同じ体勢を保っていくことで、カラダは段々と緊張を解いて、ゆっくりと緩み、変化を受け取っていきます。
そして、お休みをさせていくことは、カラダに動かなくていいことを伝え、次に何をすればいいかを常に考えてくれているあたまにもお休みをさせていくこと。
あたまがお休みをすれば、こころが外側の刺激に触れる機会が減り、波も鎮まっていきます。
強い風で涙っている湖にボートを浮かべて漕ぎ出すのと、静かに凪いでいる湖面にボートを浮かべてゆらゆらと楽しむのと、あなたはどちらが楽しめそうですか?
アドベンチャーとしては、波立っている荒い湖も楽しめるのかな?
でも、安全に楽しみたいなら、できれば静かな湖面を望みませんか?
私たちの日常生活は、この荒い波立った湖面のようなものかもしれません。
同時に、感情や想念を生み出すこころは、ヨガの中ではよくこの湖面に例えられます。
アクティブなハタヨガも、リストラティブヨガも、目指すところは同じ
~静かで凪いだ美しい湖面〜
私には、アクティブなハタヨガは、この波立った湖面を、波に乗ったり、抗ったりしながら、乗りこなしていくようなイメージ。
リストラティブヨガは、この波立った湖面が静まるのを待っていくようなイメージ。
もちろん、波立った湖面に、あえてボートを浮かべて、木の葉のように舞うのは好みません。
でも、動きを加えて、或いは逆らってチャレンジしていく、そんなイメージではないなと感じます。
リストラティブヨガと同じように、一つのポーズを比較的長い時間保っていくヨガとして、陰ヨガを思い浮かべられると思います。
その違いはどこにあるのだろう?そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
私が先生から伝えられたのは、「陰ヨガは、エッジを目指して、それをさらに深めようと求めていくイメージ」
対して、リストラティブヨガは、起こっている事を感じ、受け取っていく、受動的なイメージ。
つまり、「動かない」点で、見た目は同じようでありながら、アクティブな陰ヨガに対して、リストラティブヨガはより静かなのです。
・リストラティブヨガの恩恵
リストラティブヨガは、カラダをお休みさせて、あたま・こころもスローダウンしていくヨガ。
そして、自ら動いて働きかけていくのではなく、静けさの中で、
自分のカラダやあたま・こころの中で起こっていることを眺め、感じ、受け取っていくそんなヨガ。
外側の世界へと意識が向いているとき、わたしたちは感じることが難しい。
そして、外側の世界=刺激に触れると、あたまはそれに対応するために働き続けます。
考えることと、感じることは同時には出来ないのです。
では、外側の世界からの刺激が少なくなると、わたしたちのカラダやあたま・こころには何が起こるのでしょう?
カラダが緊張を解き、動かなくていいのでお休みをする。
あたまは刺激が減るので、考えることを止めていき、あたまがスローダウンすることで、こころも静まっていく。
そうすると、受け取るさまざまな感覚がより鮮明に感じられ、伝えられていきます。
いろんな音が混じる雑踏の中では聞き逃してしまいそうな小さな鈴の音も、静かなホールのような空間では鮮明に聞こえるように・・・
その感覚は「わたし」だけのもの。
他の誰でもない、「わたし」のもの。
正解などない、どう感じてもいい、自由。
そして、受け取る「わたし」の存在と、外側の世界の豊かさを、同時に感じていく。
やがて、「わたし」と外側の世界の境目が溶けて、ヨガの最終地点である「ほんとうのわたし」へと辿り着く・・・
リストラティブヨガは、そんなヨガのように、私は感じています。
「ほんとうのわたし」なんて知らなくてもいい。
ただ、ここに在る「わたし」が素晴らしい存在。美しい存在であることを思い出してほしい・・・
そんなヨーガを伝えられたら・・・そんな想いと共に、リストラティブヨガの2回にわたるご紹介でした。
当Spaceのblogで、過去にご紹介したリストラティブヨガのポーズはこちら
↓↓↓
https://yogaspace-turiya.info/2022/03/18/restorativeyogapose/
https://yogaspace-turiya.info/2022/04/29/restorativeyogapose-2/
特別な道具がなくっても、お家にある椅子やクッションを使って
カラダはもちろん、あたまやこころの緊張や力みを解いていくポーズです。
疲れたな・・・ちょっと元気がないな・・・お休みしたいなぁ・・・なときに、試してみてくださいね。
当Spaceは、リストラティブヨガやヨガニドラを中心に、リラックスヨガをお伝えしています。
忙しく、いろんな役割を同時にこなすことが要求される時代は、自分のための時間を持ちたくても持てない・・・
そんな方々に、ゆっくりした時間を・・・
そして「わたし」のための、「わたし」を慈しむような時間を過ごしていただけたら・・・
そんな想いでヨガをお伝えしています。
ヘトヘトで動きたくない時、こころが折れそうな時、どうぞ羽を休めにいらしてくださいね。